荘加 大祐 (Daisuke Shoka)

このエントリーでは、プレゼンテーションのロジックの作り方を学びましょう。
- プレゼンにおいて「ロジックを作る」とはどういうことか?
- 具体的な成果物は何か?
- それを作成するときのポイントは何か?
- どんなアプリを使って作成するのか?
といった疑問に答えていきます。
なお、タイトルには含めておきましたが、ここでの「ロジック」とは「アウトライン」と同義です。以降は「ロジック」で統一表記しますので覚えておいてください。
また、先にプレゼンテーションの全体像を学んでおいた方が、このエントリーは理解しやすいです。時間に余裕のある人は、以下のエントリーから先に読んでください
では始めていきましょう。
目次
プレゼンテーションにおけるロジックとは
このスライドにあるように、プレゼンテーションにおける最初のプロセスは、ロジックを作ることです。
では、ロジックを作るとは、具体的に何をすることなのでしょう?
まずは完成品のパッケージから見てください。内容はこのエントリーと揃えてあるので、サッと目を通すだけで十分です。中身をしっかり理解する必要はありません。
これは脱線の話ですが、ロジックには様々な表現形式があるということは押さえておいてください。先述のとおり、上記のパッケージとこのエントリーは、ベースとなるロジックは同じです。同じロジックを「文書(ブログ記事)」という形で表現したのがこのエントリー、「パッケージ」という形で表現したのが上のパッケージです。状況に応じて伝え方を選ぶようにしてください。
「ロジックを作る」プロセスの成果物
では本題に入りましょう。上のパッケージのもとになったロジックを見てください。
このように、「ロジックを作る」プロセスで作成するのは、1つのテキストファイルです。この成果物を作成することが、このプロセスのゴールです。
テキストファイルに含まれているべきもの
このテキストファイルには、何を書けばよいのでしょう?
結論から言うと、以下の3つの要素が必要です。
- 大論点
- 論点の構造
- ロジック(主張と根拠)
なお、これらの要素はロジカルシンキングそのものなので、このエントリーでは「どうしたらこれらの内容を考えられるか」は説明せず、書き方とポイントのみを説明します。考え方を学びたい方は、ロジカルシンキングコースを学んでください。
ということで、このエントリーでは、上記の要素を、プレゼンに関連した部分に限って説明していきます。
要素①:大論点
まず、大論点を書きます。
大論点とは、あなたがプレゼンを通じて答える1つの疑問文のことです。プレゼンのテーマと言い換えてもいいでしょう。普通に「論点」と呼んでも構わないのですが、後述する「論点の構造」と被ってややこしくなるので、ここでは便宜上「大論点」とします。
大論点:プレゼンの中心となる論点(プレゼンのテーマ)
大論点の書き方
大論点の書き方はシンプルです。1つの疑問文を書いてください。
あらゆる論点(考えたいこと)は、疑問文で書かないと具体的になりません。ここは絶対に疑問文です。もし大論点を疑問文で書けない(=名詞や文節になってしまう)なら、あなたは大論点を分かっていません。疑問文で書けるまで、先に進むのはやめましょう。
疑問文が書けたら、以下の問いかけを自分にしてください。
「その疑問文に、プレゼンの受け手は興味を持つと確信できるか?」
もし、問いに対する答えが「イエス」でないなら、やはり先に進むべきではありません。大論点を変えましょう。受け手が興味を持たない大論点で、プレゼンが成立するはずがないですよね。
練習問題
練習問題もやっておきましょう。
このエントリーの大論点を答えなさい。疑問文で書くこと。
以下に解答欄がありますので、答えを書いてみてください。自分で書いた方が、ずっと効率的に学習できます。分からなくても、トライしてくださいね。なお、この解答欄に書いたことは保存できないので、解答を保存したい場合は自分のメモアプリなどを使ってください。
プレゼンにおいて「ロジックを作る」とはどういうことか?
※この論点が大きすぎるため、次に説明する「論点の構造」が必要になります。
要素②:論点の構造
大論点が決まったら、次は論点の構造を作ります。
プレゼンのテーマになるような論点は大きいので、直接的に答えることはできないか、答えられたとしても抽象的な話になりがちです。そこで、大論点を分解し、小さな、具体的な答えを出しやすい論点のリストを作ります。これが論点の構造です。
論点の構造の書き方
論点の構造は、箇条書き機能を使って、大論点から繋げて書きます。
以下は、先ほどのテキストファイルで論点の構造に該当する部分です。箇条書きを使って書くとはどういうことか、確認してください。
箇条書き機能を使うには、ツールバーにある箇条書きボタンを押してください(Wordの場合)。その他のアプリの場合、半角マイナス(”-“)の後に半角スペースを空けて文を書き、改行してみてください。おそらく自動的に箇条書き状態になるはずです1。
箇条書き状態になれば、あとは”Tab”を押せば階層が下がり、”Shift + Tab”で階層が戻ります。これで階層を調整し、論点の関係性を視覚化します。
慣れるまでは、ここが一番ハードなポイントです。論点の構造を作るのはロジカルシンキングの中心的な技能であり、正しく論点を分解できるようになるまでには時間がかかります。しかし、難しいからといって逃げていても始まりません。論点の構造は必ず作りましょう。
コツは、頭で考えるより、書いてみることです。大論点から派生する、「答えたら、受け手が喜ぶであろう疑問文」を片っ端から書きましょう。書くことで、さらに新たな疑問文が湧き出てきます。本当ですよ。Tabで構造を整えるのは後からでもできるので、まずはたくさん書きましょう。
それも難しい場合は、単に「プレゼンで言いたいこと」を片っ端から書いてください。そして、「それはどんな問いに答えているのか」を、以下の表を参考にして考えてください。表を右から左に辿るイメージです。これをやれば、自分がどんな論点を考えているのか分かるはずです。
練習問題
このエントリーの論点の構造を答えなさい。
以下に解答欄を用意しておきますが、この解答欄では先ほど説明した箇条書き機能は使えません。できるだけ、自分のメモアプリなどを立ち上げて箇条書き機能を体験してみてください。ただし、アプリに機能が実装されていない可能性はあります。
- プレゼンにおいて「ロジックを作る」とはどういうことか?
- 具体的な成果物は何か?
- それを作成するときのポイントは何か?
- 何を書くのか?
- 各項目の書き方は?
- 各項目に書くことは、どうしたら考えられるか?
- どんなアプリを使って作成するのか?
このエントリーの冒頭には論点の構造が書いてありますが、あれはこの解答例よりはスッキリさせてあります(3つめのレベルのものを割愛している)。自分用にカッチリ作り込んだ論点の構造を、そのまま冒頭で受け手に伝えても分かりにくいからです。
要素③:ロジック
論点の構造まで書けたら、次はロジックを書きましょう。ロジックとは、論点に対する答えです。このうち、論点に対する直接的な答えが主張、主張が正しい理由が根拠です。以下に、ロジカルシンキングコースのスライドを掲載しておきます。
当然ですが、問いを提示するだけでプレゼンが終わることはありえません。受け手は、あなたの考えた答えが聞きたいのです。それを書きましょう。
ちなみに、ここではあっさりと「論点の構造まで書けたら、次はロジックを書きます」と述べていますが、実際に考える段階では、論点を決めてからロジックが完成するまでには、大変な労力と時間がかかるものです。それは全く普通のことですので、安心してください。
もし簡単にロジックが作れてしまうなら、そもそもの論点が大丈夫か疑った方がよいでしょう。簡単に答えを出せるような論点が受け手に価値をもたらす可能性は低いです。
言い換えると、簡単には答えが出せない論点に対して答えを示すことが、あなたのプレゼンの価値の源泉です。ここに大半の時間を投入して、受け手をうならせるロジックを考えてください。
ロジックの書き方
ロジックの書き方ですが、慣れるまでは「論点の構造で書いた疑問文を見出しのような形に変形し、そこに内容を箇条書きで書く」ことをオススメします。該当部分を見てください。
慣れてきたら、自分なりに書きやすいスタイルを模索してください。論点の構造で書いた疑問文の後ろに”→”などを使って答えを書き込むスタイルでもよいでしょう。
ただし、どのようなスタイルで書くにせよ、キーメッセージを太字にしてハイライトしましょう。キーメッセージとは、受け手が「おお!」と思う(と、あなたが確信できる)一文のことです。主張でも、根拠の一部でも構いません。
キーメッセージ:受け手に価値をもたらす一文
ある文がキーメッセージかどうかは、以下の問いに答えることで検証してください。
- それは受け手が知らないことか?
- それは受け手の常識(当然「正しい」と考えていること)を否定しているか?
- それは受け手が確信を持てないことに関して、ケリをつけているか?
これは逆から考えれば明らかでしょう。受け手が既に知っていること、正しいと認めていること、確信を持っていることをあらためて伝えたところで、受け手が価値を感じるはずがありません2。受け手に価値をもたらすためには、それ以外のことを言う必要があります。
キーメッセージをハイライトする理由は、全体のロジックよりもキーメッセージの方が重要だからです。
キーメッセージがないということは、ロジックの中に「受け手にとって新しいこと」が含まれていないことを意味します。これでは、たとえロジックが綺麗にまとまっていても、価値が生まれるはずがないですよね。
逆に、1つでもキーメッセージが用意できれば、全体としてのロジックに多少の粗があったとしても、プレゼンは成功する可能性が高いです。結局のところ、受け手にインパクトを与えるのは全体としてのお話ではなく、パンチのある一文だからです。
キーメッセージをハイライトして、必殺の右ストレートが用意できているのかをチェックしてください。どこもハイライトできないなら、ロジックをもう一捻りした方がよいでしょう。
テキストファイルを作成するアプリ
最後に、このテキストファイルを作成するアプリについて考えてみましょう。
ここまでに例として提示したテキストファイルは、Wordで作成しています。これは、①Wordは最も普及している文書ソフトである、②同じMicrosoft製品なので、PowerPointとの対比が分かりやすい、という理由からそうしました。初心者の人は、まずはWordで作業するのがよいでしょう。
しかし、機能的な要件だけに絞ると、以下の3つの機能があれば、このテキストファイルは作成できます。
- 大量のテキストが書ける
- 箇条書き機能があり、文の階層構造を作れる
- 太字などの、文字のハイライト機能がある
そして、これらの機能は、テキストを扱うアプリにはほとんど搭載されています。
逆に、これだけの機能しか求めないときに、用紙サイズや余白まで指定でき、成果物としての文書が作成できるWordは機能過多です。機能過多なだけならよいのですが、そのせいでWordには「重い(立ち上がりが遅い)」、「テキストを他のアプリにコピーしたときに文字化けしやすい」といったデメリットがあります。
というわけで、慣れてきた人はWord以外のアプリを使った方がよいでしょう。以下、候補となるアプリ・機能についてコメントしておいたので、参考にしてください。
オススメ①:ノートアプリ
Wordからの引越し先として、まずはノートアプリをオススメします。
説明するまでもないかもしれませんが、ノートアプリとは、クラウド上にメモを保存し、複数の端末から編集が可能なアプリのことです。人によっては「クラウドメモ」と呼んだりもしますね。Wordなどの文書ソフトに比べ、圧倒的に軽く、いつでもどこでも気軽に編集できるのが魅力です。
具体的なアプリ名ですが、私の経験上、Evernoteとメモ(Mac/iOS)はロジック作成に問題なく使用できます。ただし、Evernoteは無料プランだと同期できる端末が2台までなので注意してください。
他にもノートアプリは数多くあるので、自分にあったものを探してみてください。
オススメ②:アウトライナー
次に、アウトライナーという手もあります。これはゴリゴリにロジックばかり書く人向けです。
アウトライナーとは、分かりやすく言うと「箇条書きしか使えないWord」です3。箇条書きのレベルごとに表示を折り畳むことができたり(全体の構成が掴みやすくなる)、その箇条をドラッグで移動できたりします(再構成がしやすい)。ざっと調べたところ、現在はDynalistとWorkflowyというアプリが主流のようです。
私のイメージとしては、アウトライナーは長文の文書を書く人が使うアプリで、パッケージのロジックを書くために使うという話はあまり聞きません。しかし、パッケージのロジックを作る用途にもアウトライナーは使えます。冒頭で説明したように、このエントリーで説明したロジックとはアウトラインそのものですからね。そして、最終的な伝え方が文書なのかパッケージなのかに関わらず、アウトラインは同じように作ります。実際、私は一時Treeというアウトライナーを使っていました。
ただ、現在は使っていません。アウトライナーは確かに使いやすいのですが、ノートアプリとの線引きが難しく、アイデアが2つのアプリに分散するデメリットの方が大きい気がしたのです。結局、スマートフォンから編集しやすいノートアプリに集約しました。
ただ、このあたりは人によって好みが分かれる部分ですし、そもそもノートアプリとアウトライナーの境界線も曖昧です(ノートアプリ的に使えるアウトライナーもある)。色々と試してみてください。
非推奨①:メーラー
ここからはオススメしないアプリです。まず、メーラー(宛先のない下書きメールにロジックを書くこと)はあまりオススメできません。
理由はシンプルで、ロジック作成中にメールが届くからです(ネット接続を切れば話は別ですが)。ロジック作成中、というより集中を必要とするあらゆる作業中は、メーラーを立ち上げるべきではありません。
ただ、メーラーには「そのままロジックを共有しやすい」というメリットがあります。メールが届くこと以外に目立ったデメリットはないので、メールは即レスが当然で、メーラーを落とすことがありえないような環境下にいる人は、メーラーでロジックを書くのもありかもしれません。
非推奨②:PowerPointのアウトライン機能
最後に、PowerPointの「アウトライン表示」機能もオススメできません。これはメーラーと違って、全くオススメできないです。
「アウトライン表示」機能とは、PowerPointの左側がスライドの縮小版からスライドのロジックに変わる機能です。以下の画像で確認してください。
PowerPointの機能を網羅した書籍には、よく「アウトライン表示を使って、プレゼンの構成を考えよう」といったことが書いてあります。
しかし、見てのとおり、この機能ではロジックと各スライドが紐付いてしまいます。「各スライドで何を伝えるか」は、「全体として何を伝えるか」が決まった後で考えればいいことで、最初から考えることではありません。
そして、「全体として何を伝えるか」がテキストファイルに落とし込めていれば、あとはそれを切り分ければ「各スライドで何を伝えるか」は決まります。わざわざアウトライン表示機能を使う理由がありません。しかも、この機能を使うとスライドに箇条書きが書き込まれ、後からスライドを視覚化するときには削除しなければならないのです。
普通のプレゼンでは、アウトライン表示機能を使うべきタイミングは、最初から最後まで存在しません4。「機能が実装されていること」と「その機能を使うべきか」は別の話ですので、注意してください。ロジックはテキストを扱うアプリで作りましょう。
以上、ロジックの作り方を説明しました。最初は大変ですが、このプロセスがプレゼンの肝ですので、頑張ってくださいね。
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私の経験上、テキストを扱うアプリであれば、ほぼ確実にこれで箇条書き状態になります。もし機能しない場合は、アプリごとのやり方を調べてください。もちろん、箇条書き機能が搭載されていない可能性もあります。 ↩
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ただし、これは論理的なプレゼンをするケースです。共感ベースでプレゼンをする場合は、受け手を肯定することで価値が生まれるので、使い分けてください。 ↩
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Wordにもアウトライン表示機能があり、これを使うとアウトライナーとして機能します。しかし、先述のとおりWordには無視できないいくつかのデメリットがあるため、他の専用アウトライナーを使う方がよいでしょう。 ↩
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アウトライン表示機能が役に立ちそうなのは、「何を伝えるべきかが頭の中である程度まとまっていて、箇条書きのスライドのみでパッケージを構成する」という、極めて特殊なケースのみです。 ↩