投資判断(What)のフレームワーク

このエントリーでは、投資判断のフレームワークを説明します。

早速始めていきましょう。

投資判断のフレームワーク

早速ですが、まずはフレームワークを見てください。以下のスライドにまとめてあります。

投資判断のフレームワーク

情報密度の高いスライドになってしまい申し訳ないのですが、このフレームワークはここまで一気に覚えないと使い物にならないため、情報を詰め込みました。少し情報量が多いですが、ここまで覚えれば、事業計画書の基本的な項目は押さえられます。

見てのとおりですが、大論点→中論点へのフレームワークは以下になります。

投資判断のフレームワーク

投資判断 = ビジネスモデル × 収益性 × 実現性

中論点→小論点へのフレームワークは以下の3つですね。

ビジネスモデルのフレームワーク

ビジネスモデル = 問題 × 解決策 × 収益モデル

収益性のフレームワーク

収益性 = 市場サイズ × 差別化要因 – コスト

実現性のフレームワーク

実現性 = 経営資源 × ビジョン

なお、収益性のフレームワークは数式で分解しているため、最後の要素だけ「×」ではなく「−」にしてあります。詳しくは後述します。

画像の内容と全く同じではありますが、箇条書きで記述した形(論点の構造)でも掲載しておきます。

  • 投資判断:この事業に投資するべきか?
    • ビジネスモデル:この事業は、どのように価値創造するのか?
      • 問題:顧客の抱えている問題は何か?
      • 解決策(問題解決の流れ):企業は、顧客の問題をどのように解決するのか?
      • 収益モデル(金の流れ):顧客は、どのように金を払うのか?
    • 収益性:この事業は儲かるのか?
      • 市場サイズ:この事業は、どれくらいの市場サイズなのか?
      • 差別化要因:なぜ、この市場で勝つのは私たちなのか?
      • コスト:この事業を運営するのに、いくらコストがかかるか?
    • 実現性:この事業を長期にわたって運営できるか?
      • 経営資源:この事業に必要な経営資源は何で、それはある/用意できるか?
      • ビジョン:私たちは、この事業をやりたいか?/やるべき集団か?

大きな構造

最初に、このフレームワークの大枠を確認しておきましょう。

まず、大論点は投資判断です。ある事業に対して金を使うか/使わないか、つまり、やるか/やらないかということですね。マーケティングにおける、What側を分解しているフレームワークになります。

なお、このスライドに関しては以下のリンクで説明しています。

ちなみに、What側の論点にはもう一つ、「どうしたら、やるべきか検討することを思いつけるか?」という論点があり、これは今回紹介しているフレームワークに先行します。ただ、この論点は発想(アイデア出し)の領域であり、ロジカルシンキングでは扱えないため割愛します。ご了承ください。

話を戻しましょう。この大論点で、新規事業の開始と、既存事業からの撤退の両方が扱えます。撤退を考えたい場合は、大論点を「既に金を使っているA事業に対して、今後も金を使い続けるべきか?」と読み換えてください。

なお、今後は基本的に新規事業の開始を想定して論点を記述します。撤退を考えたい場合は、適宜読み換えてください。

先に進みましょう。中論点は、①ビジネスモデル、②収益性、③実現性の3つです。

投資判断のフレームワーク

投資判断 = ビジネスモデル × 収益性 × 実現性

①ビジネスモデルとは、要するに「それはどんな事業なのか」ということです。投資判断しようにも、まずはどんな事業なのかが分からなければ始まりませんからね。

②収益性とは、言葉どおり「それは儲かるか」です。企業は儲からない事業をやるわけにはいかないので、それを検討するわけですね。

最後に、③実現性とは、「それをやりきれるのか」ということです。儲かるビジネスモデルを思いついても、それがやれることで、かつやりたいことでないと、長続きはしませんよね。この中論点では、それを検討します。

つまり、全体の構造を率直な表現で書き直すと、以下のようになります。

  • その事業をやるか、やらないか?
    • それはどんな事業なのか?
    • それは儲かるのか?
    • 私たちはそれをやりきれるのか?

要するに、何をやるかしっかり理解して、それが儲かりそうで、やりきれそうであれば、やる、という話ですね。

なお、スライドの脚注に書いておきましたが、もし複数の投資機会が同時に存在し、かつ資金や経営資源が限られている場合は、④優位性(この事業が最も好ましい投資対象か?)も検討する必要があります。

ただ、ここまでスコープに入れると分かりにくくなるのと、この論点は考えるタイミングが違うので(すべての投資対象に対して個別の評価をした後でしか考えられない)、フレームワークには含めませんでした。必要に応じて加えてください。

では、個々の中論点を詳しく見ていきましょう。

中論点①:ビジネスモデル

投資判断のフレームワーク①

1つめの中論点は、ビジネスモデルです。

ここは長い話になるので、別エントリーにまとめました。以下のリンクを読んでください。

中論点②:収益性

投資判断のフレームワーク②

2つめの中論点は、収益性です。これはシンプルに利益のことだと考えてください。これを以下のように分解します。

収益性のフレームワーク

収益性 = 市場サイズ × 差別化要因 – コスト

分解がこうなる理由を説明しましょう。知ってのとおり、利益は以下の数式で表されます。

  • 利益 = 売上 − コスト

そして、この「売上」の部分を、競争のフレームワークを使って「市場」と「シェア」に分解できます。競争のフレームワークについては、以下で説明しています。

そうすると、分解は以下のようになります。

  • 利益 =(市場 × シェア)− コスト

この3要素が、フレームワークの3要素と対応関係にあります。順に見ていきましょう。

収益性の小論点①:市場サイズ

1つめの小論点は、市場サイズです。分かりやすく言うと、パイの大きさですね。次の小論点でパイの取り分を考えますが、そもそものパイに十分な大きさがなければ、売上は望めません。

そして、このように「市場サイズ」というとき、関心があるのは将来の市場サイズです。大論点で「これからやるか、やらないか」を考えているわけなので、現在の市場サイズだけでは片手落ちです。

将来の市場サイズは、以下のように計算できます。

  • 将来の市場サイズ = 現在の市場サイズ × 市場の成長率

私の経験上、現在の市場サイズ云々というよりは、「これから伸びる市場なのか」が重要です。縮小市場というのはどうしても消耗戦になりますからね。新規事業企画の場合は、成長市場であることを示せない企画はまず通らないでしょう。

Point

市場サイズを考えるときは、市場の成長率が重要

市場サイズを考えるヒントを、以下に書いておきます

  • 事業が解決する問題を抱えている顧客の人数
  • 顧客の問題の深刻さ(=顧客単価)
  • 顧客に問題が発生する頻度(=購買頻度)
  • 先行している競合がいるなら、その売上、ユーザー数など
  • 既存の市場サイズ
    • 既に存在している市場から、テクノロジーの優位性などでシェアを奪う事業の場合

これらの要素に、「将来どうなるか?」という視点も加えて考えてみてください。

収益性の小論点②:差別化要因

2つめの小論点は、差別化要因です。分かりやすく言うと、シェアを奪える理由ですね。どれだけパイが大きかろうと、食べるのが自分たちでないなら意味はありません。なぜ、パイを奪うのは私たちなのでしょう? この問いに対する答えが必要です。

まず注意してほしいのは、この小論点はマーケティングの「How」の部分とダブっているということです。この小論点で考えるのは「所与のビジネスモデルにおいて、私たちが勝つ理由」ですから、これはそのまま「How」の大論点と同じです。

マーケティングのフレームワーク

ただし、論点を考えるタイミングが違います。Whatの一部として考えるときはタイミングとして投資前、Howとして考えるときは投資後になりますよね。今回はWhatの一部として考えるわけですから、投資前であり、そこまでガチガチな分析はできないということです。世の中、やってみないと分からないことばかりですからね。

ということで、この論点の詳細な検討方法はHow側のエントリーで説明します。今回はWhat側の視点に寄せた軽めの説明になるということをご了承ください。

では、話を論点に戻しましょう。なぜ、パイを奪うのは私たちなのでしょう?

よくある答え:まだ他に誰もやっていない

この小論点で一番分かりやすい答えになるのは、「まだ他に誰もやっていない」という答えです。パイを食べるのが1人なら、パイの奪い合いにはなりませんからね。新規事業では、この答えになることが多いでしょう。

ただし、この答えを用意した場合は、追加で次の問いに答える必要があります。

なぜ、まだ他の誰もやっていないのか?

ここで即座に「最初に思いついたのが私だから」と答えたい気持ちは分かりますし、それが正しい可能性はあるのですが、それだとそこで終わってしまいます。

そこで、もう一段深く考えるために、なぜ今なのか(Why now?)を考えてください。言い換えると、「これまでに似たようなアイデアを思いついた人はいても、それは実行されなかった。なぜなら、XXX。しかし、今ならXXX」というお話を考えるのです。アイデアがあなたのオリジナルかどうかにこだわるより、こう考える方が建設的です。

Point

世の中にないビジネスモデルを始めるときは、「Why now?」を考える

この問いに対する答えとしてよく使う型としては、以下のようなものがあります。

  1. テクノロジーの進歩:これまではアイデアはあっても実現方法がなかった。しかし、今なら技術的に実現可能である。
  2. 顧客/収益モデルの変化:これまでは解決策はあっても、顧客から金をもらう方法や、そのようなサービスに金を払う文化的土壌がなかった。しかし、今ならある。

次の問い:どうやって勝ちきるのか?

さて、残念なニュースですが、もし「Why now?」に上手く答えられたとしても、それだけでは足りません。あなたが大きなパイを独り占めすることを許してくれるほど、資本主義経済というのは甘くないからです。必ず、誰かがあなたの真似をします。しかも、その「誰か」はあなたより分厚い札束を持っていると思って間違いありません。

実際、何社かのスタートアップで賑わっているように見えた市場が、気がつくと後発参入の大企業にシェアを奪われていた、というケースは結構あります。オンライン英会話などはいい例ですね。

言い換えると、「Why now?」は検討しているビジネスモデルの成功可能性を深いレベルで検討する役には立っても、長期にわたってあなたが勝ちきることの答えにはならないわけです。次の問いを追加で考える必要があります。

なぜ、資金のある他社はこの事業を真似できない/しないのか?

いわゆる、参入障壁というやつですね。これがないと、たとえ最初は上手くいっても、後発の大企業に札束で殴られて終わりになるかもしれません1

よくある参入障壁としては、以下のものがあります。

  • シナジー:(例)当社のA事業からBという経営資源を流用するので、他社に比べコストで圧倒的に優位に立てる
  • 先行者優位:(例)このサービスは顧客基盤が大きくなるほど使い勝手がよくなる特性があるので、先行して顧客基盤を作りスイッチングコストを大きくしてしまえば、資金のある他社が参入しようと追いつけない
  • 法的な保護:このビジネスの主要な経営資源であるXXはYYという法で保護されており、他社は真似することができない(特許や商標などのこと)

ここは端的に言うと「市場におけるKSFを特定し、それを他社が真似できないレベルまで強化する」ということなのですが、今回はこのあたりでやめて、続きはHow側のエントリーで解説したいと思います。

収益性の小論点③:コスト

3つめの小論点は、コストです。これはそのままですね。何にいくらかかるのか、ということです。

ここに関しては、一般論で述べられることは特にありません。個別のオペレーションや必要な経営資源を積み上げて計算するしかないからです。

コストの基礎知識に関しては以下の2つのリンクで解説していますので、時間のあるときに読んでおいてください。

中論点③:実現性

投資判断のフレームワーク③

3つめの中論点は、実現性です。これは冒頭でのべたように、「やりきれるか?」を考える論点です。これを、以下のように分解します。

実現性のフレームワーク

実現性 = 経営資源 × ビジョン

これは、「やりきる」ことを「やれる(can)」と「やりたい(want)」に分解していると考えてください。やれることで、やりたいことなら、やりきれそうですよね。前者に該当するのが経営資源、後者がビジョンです。

順に見ていきましょう。

実現性の小論点①:経営資源

1つめの小論点は、経営資源です。先述のとおり、「やれるか」を考える論点です。

経営資源に関しては別エントリーで詳しく紹介する予定ですので、ここでは簡単に説明します。

まず、キャッシュフローを考えなければなりません。キャッシュがなくなれば企業は倒産するからです。これに関しては、以下のリンクも参考にしてください。

つまり、検討中の事業単体としてどうキャッシュが変化するのか、それは企業全体のキャッシュフローにどのような影響を与えるのかを考慮することは、事業の実現性を考える上での絶対条件です2

次に、人材も考える必要があります。テクノロジー系の解決策のケースなどが分かりやすいですが、能力を持った人材がいなければ、解決策は実装できません。解決策を実装できる人材はいるのか、いないなら、どのように採用するのかを考える必要があります。

その他の経営資源に関しても、必要に応じて考えてください。

実現性の小論点②:ビジョン

2つめの小論点は、ビジョンです。今度は「やりたいか」を考える論点です。

これはそのままですね。やれることであっても、やりたくないことはやれません。やったとしても、長続きはしないでしょう。やろうとしている事業がビジョンと整合しているのか考えましょう。

なお、組織的に検討するケースを想定して「ビジョン」としましたが、これは個人レベルではやる気のことです。その意味で、人材には能力だけでなく、その事業に対するやる気・熱意も求められるということです。

以上、投資判断のフレームワークを説明しました。企画書を書くときなどの参考にしてみてください。

さらに学習を進めたい人は

ここまで読んでいただき、どうもありがとうございました。マーケティング学習をさらに進めたい人は、以下のエントリーに進んでください。文中でも紹介しましたが、ビジネスモデルとは何かを掘り下げていきます。

また、マーケティング関連のエントリーは以下のページにまとめてあります。こちらも参考にしてください。

参考文献


  1. ただし、「大企業が後発参入するほど市場が盛り上がったら、買収してもらえばいい」という考え方もあるので、この問いにそこまでシビアになる必要はないかもしれません。この問いを厳密に詰めても身動きできなくなりますし。 

  2. キャッシュは経営資源内における重要性が別格なので、別の小論点として切り出すべきかもしれません。とりあえず「やれる(can)」のレベルで括った方が分かりやすいかなと思ったので「経営資源」としましたが、必要に応じて「キャッシュ」として切り出してください。