荘加 大祐 (Daisuke Shoka)

このエントリーでは、競争のフレームワークを紹介します。数あるフレームワークの中でも最も使い勝手がよいものの1つなので、しっかり使いこなせるようにしてください。
では始めていきましょう。
目次
競争のフレームワーク
競争のフレームワークとは、競争をWhatとHowに分けるフレームワークです。
競争 = What × How
論点の構造にすると、以下のようになります。
- 競争:どのように戦うべきか?
- What:何をして(どこで)戦うべきか?
- How:そこで、どのように戦うべきか?
ちなみに、「What」は「Where」と言われることもあります。好みの方を使ってください。
今回のフレームワークはこのサイトで紹介しているフレームワークの中で最も抽象的なので、おそらくまだピンとこないでしょう。具体例はこの後に紹介するので、まずは以下のスライドでイメージを掴んでください。
このように、今回のフレームワークは、物事を捉える目線のレベルを2つに分けるイメージです1。What/Whereは引いた(メタな)目線で、Howは近い目線です。スライドの右にいくほど、対象にズームインしていくイメージですね。どのレベルで目線を切り分けるかは、ケースバイケースです。
使用例
では、具体的な論点の構造を見ていきましょう。4パターンほど紹介します。
なお、このフレームワークは抽象的なので、実際に使う場合には大論点(競争)も小論点(WhatとHow)も別の言葉に変化させます。そこに注意しながら具体例を見てください。
使用例①:ある商品の売上
まずは王道である、「市場 × シェア」を使うパターンを見てみましょう。ある商品の売上が減っており、原因を知りたいとします。
- 競争→売上が減った原因:なぜ、商品X(チョコレート)の売上が減ったのか?
- What→市場:チョコレート市場が縮小したのか?
- How→シェア:競合にシェアを奪われたのか?
自分が食べるパイの大きさ(売上)は、パイ全体の大きさ(市場)にパイの取り分(シェア)をかければ分かる、というわけです。この例では、スライドの中央と右側で、目線のレベルを分けています。
もちろん、売上が増えている場合も、この分解が使えます。
なお、この場合、売上に対する市場とシェアの寄与度が分かればよく、「市場のせいか、シェアのせいか」の白黒をつけなければならないわけではありません。フレームワークを使うことで、市場とシェアの両方の視点でチェックできることに意義があります。
使用例②:ある商品の将来予測
「市場 × シェア」は王道なので、もう1パターン紹介しておきます。今度は、売上の将来予測がしたいとします。
- 競争→売上の将来予測:今後、商品X(チョコレート)の売上はどう変化しそうか?
- What→市場の将来予測:チョコレート市場の市場規模は、今後どうなるか?
- ここはさらに、「現在の市場規模」と「今後の市場成長率」に分けて考えるとよい
- How→シェアの将来予測:チョコレート市場において、Xのシェアは何%になるか?
- What→市場の将来予測:チョコレート市場の市場規模は、今後どうなるか?
このように分解すると、これまでの売上トレンドを未来に引っ張るだけより、精緻な予測ができそうですよね2。
ちなみに、このような論点を考える場合、今後の市場成長率や未来のシェアを正確に予測するのは困難なので、数パターンのシナリオを用意しても構いません。
使用例③:事業概要を理解したい
では、ここからは「市場 × シェア」から離れてみましょう。ある企業の事業概要が知りたいとします。
- 競争→事業概要:XX(企業)の事業はどうなっているか?
- What→事業ポートフォリオ:どんな事業があるか?
- How→事業ごとの売上:それぞれの事業で、売上・シェアはどうなっているか?
これは大企業を理解したいときに使える、典型的な論点の構造です。大企業は複数の事業を抱えているので、まず何をやっているかの全体像(事業PF)を理解して、それから個々の事業を掘り下げるわけです。今度は、スライドの左側と中央で目線のレベルを分けています。
ただ、ここまでだと初心者レベルではあります。応用レベルとしては、複数の事業間にあるシナジー(使い回されている経営資源など)を考えてみてください。お互いが完全に独立している事業なら、同じ企業内にある意味がないですからね。分けて捉えた後で、今度はつながりを探すイメージです。
使用例④:会社全体で売上を増やしたい
最後に、会社全体で売上を増やしたいケースを考えてみましょう。
- 競争→売上増加:(会社全体で)売上を増やすためにはどうすればよいか?
- What→新規事業の立案:新規事業を始めるべきか?/どんな新規事業を始めるべきか?
- 事業が多すぎて選択と集中が必要そうなら、既存事業の撤退も検討する
- How→既存事業の改善:既存事業で、どうやって売上を増やすか?
- What→新規事業の立案:新規事業を始めるべきか?/どんな新規事業を始めるべきか?
これもよくある分解パターンです。売上を増やしたい場合、大きく分ければ2つの筋があります。Whatレベルを変える(やることを増やす)か、Howレベルで頑張る(やっていることを、さらに上手くやる)かです。
ちなみに、この分解に地理的な概念も加えると、「アンゾフの成長マトリクス」になります。興味のある人は検索してみてください。
WhatとHowの具体例
これまで見てきたように、WhatとHowは様々な言葉に変化します。代表的なものを以下の表にまとめておきました。
What/Where | How |
---|---|
どこで戦うか | どう戦うか |
市場 | シェア |
事業ポートフォリオ | 個々の事業 |
新規事業の立案/事業の整理 | 既存事業の改善 |
リソース配分 | 配分されたリソースの使い方 |
戦略 | 戦術 |
慣れてくると、これらは本質的に同じフレームワーク(目線のレベルを使い分ける)であると理解できます。最初はピンとこないかもしれませんが、何度か使っているうちに分かるので安心してください。
練習問題
では、早速フレームワークを使ってみましょう。
以下の論点を、「What × How」のフレームワークで分解しなさい。適宜、適切な表現にすること。
- なぜ、商品Y(炭酸飲料)の売上が増えたのか?
- 今後、商品Y(炭酸飲料)の売上はどう変化すると考えられるか?
- 当社が売上を増やすために、何をするべきか?
以下に解答欄がありますので、答えを書いてみてください。自分で書いた方が、ずっと効率的に学習できます(参考)。分からなくても、トライしてくださいね。なお、この解答欄に書いたことは保存できないので、解答を保存したい場合は自分のメモアプリなどを使ってください。
- 競争→売上が増えた原因:なぜ、商品Y(炭酸飲料)の売上が増えたのか?
- What→市場:炭酸飲料市場が拡大したのか?
- How→シェア:競合からシェアを奪ったのか?
- 競争→売上の将来予測:今後、商品Y(炭酸飲料)の売上はどう変化しそうか?
- What→市場の将来予測:炭酸飲料市場の市場規模は、今後どうなるか?
- How→シェアの将来予測:炭酸飲料市場において、Yのシェアは何%になるか?
- 競争→売上増加:当社が売上を増やすためにはどうすればよいか?
- What→新規事業の立案:新規事業を始めるべきか?/どんな新規事業を始めるべきか?
- How→既存事業の改善:既存事業で、どうやって売上を増やすか?
Whatがすべて
さて、フレームワークを使ってWhatとHowに分けましたが、実はこの2つは全く平等ではありません。それどころか、Whatがすべてと言っても過言ではないくらいです。このフレームワークを使う意義も、2つに分けることにあるというよりは、Whatを漏らさずに済むところにあると言えます。
なぜ、Whatの重要性が圧倒的に高いのでしょう?
結論を先に言うと、Whatが、Howでできることを決めてしまうからです。もう少し厳しい言い方をすると、勝敗はWhatのレベルで決まってしまうことが多いのです。
どういうことでしょうか?
レンタルDVD市場で頑張れるか
例として、レンタルDVD市場を考えてみましょう。2019年現在、レンタルDVD市場は急速に縮小しています。
原因は知ってのとおり、オンデマンドビデオ(Amazon Prime Video、Netflixなど)が出現したからです。以下のように、「映像を見る」という付加価値において、ほぼすべての側面でオンデマンドビデオの方が上です。
- 借りて、返却する手間が無い/見たいと思った瞬間に見られる
- 価格が安い
- 固定料金で多くの作品が見られる
- Amazon Prime Videoに至っては、事実上0円
- ハズレ作品を掴んでもイライラせずに済む
- 単品レンタルの価格も、新作なら大差なし
- 固定料金で多くの作品が見られる
- 物理的な制限がないため品揃えも豊富で、探す手間も店舗より少ない
- 人に借りられているリスクもゼロ
現在でもレンタルDVDに優位性がある点は、古い作品の単品レンタルをする場合の価格くらいではないでしょうか。あとは、ネット回線が貧弱な人やそもそもネットに接続する機器を持っていない人は、レンタルDVDを使うしかないですね。
逆に言えば、それ以外の人には、レンタルDVDを使う理由がもう残っていません。私は現在、「Amazon Prime Videoの中に、見たい作品があれば見る」という状態になっています。DVDはもう何年もレンタルしていないですね。
つまり、より付加価値の高い方法の登場によって、「DVDを借りて映像を見たい」というニーズそのものが減ってしまったわけです。この状況下で、人々にまた「DVDを借りて映像を見たい」と思わせる方法を考えられますか? 不可能でしょう。
一部の例外的なケースを除けば3、ニーズ、つまり市場サイズは人口動態・時代背景・テクノロジーなどから決まるものです。それに対して一企業や一個人ができることはありません。
こうなってしまうと、「レンタルDVD市場」というWhatの下では、How(競合からシェアを奪う)を頑張る意味は乏しくなります。Whatのレベルで詰んでいますからね。競合と戦っている間に、競合もろとも共倒れです。Howをどうこうする前に、What、つまり、業態を変えるしかないわけです。実際、今のレンタルDVD市場ではそれが起きています。
「Whatがすべて」の亜種
このように、本質的にインパクトが大きいのはWhatの方です。これは随所で言われていることですね。以下のような言葉を、あなたもどこかで聞いたことがあるでしょう。
- どう戦うかより、どこで戦うかが決定的に重要だ
- 戦略レベルで負けていたら、戦術レベルでどれだけ頑張っても勝てない
- 何をするかより、何をしないかが重要だ
- 選択と集中
これらはすべて、同じことを意味しています。Whatがすべてということです。
Howの沼
しかし、私たちは普段、Howのことばかり考えています。Whatのことは滅多に考えませんよね。
それは当たり前のことです。普通は、Whatのことばかり考え続けることはできません。Whatのことばかり考えるとは、やることがコロコロ変わっていることを意味します。何かに腰を落ち着けて(Whatを定めて)Howに取り組むのが人間というものでしょう。
つまり、意識しないと、私たちの目線は下がっていきます。Howの沼にズッポリはまり込んでしまうわけですね。
放っておくと、私たちの目線は下がる(Howに寄っていく)
これはマズいですよね。ここまで見てきたとおり、WhatとHowで重要なのはWhatの方です。Whatのことばかり考えるわけにはいきませんが、たまにはWhatに思いを馳せないと、根本的なところで間違えてしまうリスクがあります。
ではどうしたらいいのか? ということになるわけですが、これは難しい問いです。私が答えを聞きたいくらいですが、以下、ヒントになりそうなことを書いておきます。
- 例①:Whatを強制的に考える仕組みを作る
- 年初/月初に必ずWhatレベルで振り返る、など
- 例②:年に1つは新しいことを始める
- 新しいことを始めれば、強制的にWhatが変わる
以上、競争のフレームワークを紹介しました。このフレームワークは汎用性が高く、プライベートからビジネスまで、あらゆる局面で使えます。何度も使って、必ず使いこなせるようにしておいてください。
さらに学習を進めたい人は
ここまで読んでいただき、どうもありがとうございました。マーケティング学習をさらに進めたい人は、以下のエントリーに進んでください。
また、マーケティング関連のエントリーは以下のページにまとめてあります。こちらも参考にしてください。
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そもそも、論点の分解という行為自体が「大きい概念を、いくつかの小さい概念に分ける」ということなので、ある意味ですべての論点の分解は目線のレベルを分けています。このフレームワークは、それを意識的に、露骨にやるイメージですね。 ↩
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実際にこの論点を考える場合(つまり、予測モデルを作る場合)は、ここから先の分解が大変です。たとえば、チョコレートの市場規模とは、どんな変数(因子)によって決まるのでしょう? 考えてみてください。 ↩
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例外として挙げられるのは製薬業界です。ある病気に対する処方薬の市場サイズは、その薬が必要だと診断される人の数によって決まりますよね。ということは、診断基準を変えてその病気だと診断されやすくできれば、処方薬のニーズを大きくできるわけです。つまり、製薬業界においては「診断基準を変えるためのロビー活動」によって、市場が拡大できます。しかし、これはあくまで例外的なケースです。 ↩