知覚する際のポイント【客観的な根拠の構築方法②】

知覚の全体像

このエントリーでは、知覚する上でのポイントを学びましょう。デスクリサーチ、質問調査、観察のすべてに共通する、作業をする上での重要なポイントを紹介します。

なお、このエントリーは「客観的な根拠とはどのようなものか」という一連のエントリーの一部なので、以下のエントリーから順に読んでください。

結論を先に言うと、知覚する際のポイントは以下の2つです。

  1. 知覚に時間を使う
  2. 記録する

では始めていきましょう。

知覚する上でのポイント①:知覚に時間を使う

まず、知覚することに時間を使いましょう。知覚しないで思考ばかりしても、独りよがりのロジックが出来上がるだけです。もう一度、知覚と思考の違いを確認してください。

知覚と思考

既に説明したとおり、知覚できることは他者と共有しやすいため、その正しさが万全です。まずは知覚によって正しいことを集め、足元を固めましょう。そうしなければ、思考という正しさが脆弱なものを守ることはできません。

つまり、思考と併せて、デスクリサーチ、質問調査、観察のどれかを行うべきです

知覚しない人たち

知覚しないで思考ばかりしていると、どんなことになるでしょうか。例を見てみましょう。

Aさん
Aさん

AIの発展によって、我々の働き方はどのように変わっていくだろうか?

Bさん
Bさん

これから10年で、人間が担当できる知的労働はどんどん少なくなって、人間の仕事は肉体労働に集約されるのは間違いないね。囲碁ですら、トップ棋士がAIに全く歯が立たない。もう人間の頭の出番はないよ。

この例では、Bさんが知覚しているのは「囲碁ですら、トップ棋士がAIに全く歯が立たない」というニュースだけです。この部分の正しさは万全ですが、はたしてBさんの「これから10年で人間の仕事は肉体労働に集約される」という主張は正しいのでしょうか?

説明するまでもないですが、Bさんの主張は完全に間違っています。AIは10年で人間の知的労働を奪えるようなペースでは進歩していません。こんなことは少し調べれば分かることです。脱線になるのでこれ以上詳しくは述べませんが、気になる人は自分でデスクリサーチしてみてください。

Bさんの何がまずいかというと、ごく限られた自分の経験や周辺のニュースだけを知覚して、そこから思考を進めていることです。これはロジカルシンキングのトレーニングを受けていない人の典型的な症状です。

これでは、正しい主張を導くことはできません。乏しい知覚に基づいて思考を発展させても、批判に耐えぬけるロジックを作ることは不可能です。あなたの思考が、無条件に他の人の思考より正しいことはありえないからです。

これは逆から考えれば明らかですよね。あなたは、他の誰かの思考が無条件に自分の思考より正しいとは思いたくないはずです。というより、そんなことを認めてしまったら、もうロジカルシンキングを行うことはできません。無条件に他者の思考を正しいと認めるのは「信じる」という行為であり、「考える」という行為ではないからです。ここに書いてあることも、無条件に信じないでくださいね。

Point

誰かの思考(知覚できないこと)が無条件に正しいことはありえない

よって、知覚(デスクリサーチ、質問調査、観察)に時間を使う必要があるのです。知覚によって万全に正しいものを集め、その上に自分の思考を組み上げましょう。考える(問いに対する答えを探す)という行為を根底から支えてくれるのは、知覚です。

Point

デスクリサーチ、質問調査、観察のどれかに時間を使う

ハロー効果

余談ですが、知覚をせずに思考を展開するのはロジカルシンキングのトレーニングを受けていない人だけではありません。以下のような人たちが、知覚しないで自分の思考を展開することがあります。

  • 大学教授(自分の専門でないことにコメントするケース)
  • 大企業の経営者
  • アクセスを集めたブロガー

一般に、私たちは社会的に成功している人の思考を無条件に正しいと認めてしまいがちです。ハロー効果という心理的現象により、「社会的に成功している」という事実を、「その人のロジックはすべて正しい」という形に拡大解釈してしまうからです。

ロジカルシンキングが上手くなりたいなら、自分がハロー効果の影響を受けていないか、常に意識してください。たとえ社会的に成功した人物であっても、知覚に基づいてロジックを構築していないなら、無条件にそれを信じる理由はありません。

言い換えると、その人の肩書きではなく、その人が提示した根拠を見ましょう。根拠の中に知覚した事実が含まれていないなら、そのロジックは肩書きの上の楼閣に過ぎません。

知覚する上でのポイント②:記録する

知覚する上での第二のポイントは、知覚したことを記録することです。

知覚したことを記録しておくことには、主に3つのメリットがあります。

  1. 根拠の妥当性が上がる
  2. 嘘や処理能力を疑われた際の証拠になる
  3. より妥当なロジックが構築できる

順に説明します。

なぜ記録するのか①:根拠の妥当性が上がる

ちょっと下世話な例ですが、以下の2つの例を比べてください。

Aさん
Aさん

アイドルXは俳優のYと付き合ってるよ。深夜に手をつないで歩いているところを見たんだ。

Bさん
Bさん

俺のXちゃんがそんなことするわけないだろ。人違いだよ。

主張は「アイドルXは俳優のYと付き合っている」、根拠は「深夜に手をつないで歩いているところを見た」ですが、Bさんにはまったく相手にしてもらえませんでした。では、以下のケースはどうでしょう。

Aさん
Aさん

アイドルXは俳優のYと付き合ってるよ。深夜に手をつないで歩いているところを見たんだ。ほれ、写真

Bさん
Bさん

出家するわ。

知ってのとおり、これは写真週刊誌が使っている手法です。主張と根拠は変わっていませんが、そこに写真という記録を添えることでBさんに主張を認めさせることに成功しました。何が起きたのでしょう?

以前のエントリーで学んだように、最も疑いの余地なく正しい根拠を構築する方法は、同時に知覚することです。言い方を換えれば、あなたが「知覚した」と言うよりも、知覚したことを記録しておいて批判者に知覚させる方が、根拠の妥当性は高いのです。写真・映像・録音などが裁判で高い証拠能力を持つのはこのせいです1

なお、ビジネスでは芸能人のスキャンダルや裁判ほど、知覚したことが疑われはしません。しかし、記録を添えた方が納得感が上がるのは同じです。たとえば、「A店では商品の陳列がバラバラになっている」とだけ言うよりも、そこに実際の陳列の写真も添えてあった方が分かりやすいですし、批判の余地が残りません。

つまり、記録とセットでロジックを説明した方が、あなたが「知覚した」ことの信憑性が高まり、結果として根拠の妥当性が上がるのです。できる限り知覚したことを記録しておき、それをロジックに添えるようにしましょう。

なぜ記録するのか②:嘘や処理能力を疑われた際の証拠になる

次の理由ですが、記録は嘘や処理能力を疑われた際の証拠になります

これは以前のエントリーで解説したことですが、客観的な根拠の妥当性を根本的に支えているのは「あなたは嘘つきではなく、認知能力や処理能力に問題はない」という周囲からの信頼です。この信頼が揺らいだ場合には、あなたの嘘や処理能力が疑われることになります。

このときに何の記録も残っていないようでは、あなたに反論の余地はありません。あなたが本当に嘘をついた/処理をミスしたかどうかに関わらず、あなたの信頼は失われるでしょう。

もちろん、基本的にあなたの嘘や処理能力は疑われないはずです。しかし、そのことに甘えて何も記録していなければ、あなたのことを疑わしいと思う人が出てくるものです。逆に、きっちり記録して、可能なかぎりそれをロジックに組み込む人は疑われません。

たとえば、「1,000人にアンケートした結果はかくかくしかじかです」とだけ述べる人と、「X月X日に渋谷駅周辺で1,000人を対象に実施したアンケートの結果はかくかくしかじかです。参考までに質問用紙を添付しておきます」と述べる人では、後者の方が信用に値すると思うはずです。

つまり、これは鶏と卵のような話です。嘘や処理能力を疑われても問題ないように準備しておくことで、嘘や処理能力を疑われないようになるのです。また、信頼されていようがいまいが、いざ疑われた際に何の記録も残っていないのは論外なので、記録する以外の選択肢はありません。

なぜ記録するのか③:より妥当なロジックが構築できる

ここまで紹介した2つの理由は、「なぜ記録した方が他者を説得しやすくなるのか」という視点の理由でした。いうなれば「守りの理由」です。

しかし、記録することの本質的な理由は守りではありません。攻めです。記録した方が、あなたのロジックの出来がよくなるのです。

理由を説明しましょう。まず、記録するためには、「何を記録するか」を考えなければなりません。これは論点まで遡って、「いま、何を知覚したいのか」を考えるきっかけになります。

記録したいことを明確にしておくことで、実際のデスクリサーチや観察の効率が高まります。これは特にデスクリサーチで顕著なことですが、記録したいことが明確になっていないと、手当たり次第に何でも知覚してしまうのです。これでは時間が過ぎるだけなので注意してください。

さらに、記録する過程で頭が整理され、ロジックが進化することもよくあります。これが起きる理由はハッキリしませんが、おそらく「記録する」という行為が適度なアウトプットになっていて、知覚というインプットだけの行為の中でよい刺激になっているのではないかと私は思います。とにかく、騙されたと思って記録してみてください。絶対によりよいロジックができるはずです。

Point

知覚したことは、できるだけ記録する

何を、どこまで記録するか

知覚の全体像

では、何をどこまで記録するべきなのでしょう?

これは難しい問いです。記録することが重要だとしても、私たちの目的は記録することではないからです。私たちの目的は、問いに対する正しい答えを出すことです。記録にリソースを使いすぎることは賢明ではありません。

さらに、記録しないことを条件にしないと知覚できない情報があります。たとえば、機密性の高い情報を教えてもらうインタビューでは、「匿名」かつ「録音しないこと」を条件にされることは普通です。

というわけで、この問いには答えが出せません。以下、私の考えるガイドラインを紹介しておきますが、これが絶対というわけではないので、状況に応じて調整してください。

デスクリサーチで記録すること

デスクリサーチでは、本当の意味で「情報を記録する」必要はありません。既に記録されている情報を集めるのがデスクリサーチだからです。

では、デスクリサーチでは何をするかというと、情報をハイライトします。教科書に蛍光マーカーで線を引くイメージですね。

デスクリサーチでは質問調査や観察と違い、欲しい情報がピンポイントで取れません。むしろ、大半が必要ない情報の海から必要な情報だけをすくい上げるイメージです。

ここで自分の記憶能力に頼ってハイライトを怠ると、後から悲惨なことになります。どこに情報があったか思い出せなくなるのです。

デスクリサーチの結果を最終的にロジックに組み込む際には、出典(どこでその情報を見つけたか)を書くことになります。引用するなら出典がないと違法行為になってしまいますし、参考にしただけの場合でも出典を明示した方があなたの信用度は上がるからです。

つまり、最後には出典が必要になります。必要になりそうな情報を見つけたら、それに再度アクセスしやすいようにハイライトしておきましょう。もしくは、即座に部分的なロジックを作ってしまうこともオススメです。こうしておけば、後から「あの情報はどこにあったっけ?」とならなくて済みます。

質問調査で記録すること

質問調査では、最低でも以下の情報を記録しましょう。

  • 実際にした質問と、それに対する答え(最重要)
  • いつ、どこで、どうやって質問をしたか

あとは、質問の回答者に関する情報も、できるだけ記録するべきです。名前、職業、性別、大まかな年齢あたりは知りたいところです。ただし、匿名を条件にしたインタビューなら、それを他者に明かしてはいけません(当然ですが)。また、アンケートの場合は個人名までは分からないことも多いでしょう。

なお、質問の仕方によっては、記録する手間が省けます。たとえば、メールのやりとりなら上記の情報はほとんど自動的に記録されており、分からないのは回答者の細かな属性くらいです。アンケートも、欲しい情報を記入させるようにアンケートを作り込んでおけば、必要な情報はすべて記録された形で残ります。そういう意味で、文字ベースの質問調査は手堅いです。

大変なのは、インタビューのように音声で質問をする場合です。質問に対する答えをメモし続ける必要がありますし、録音できないことも多いです(録音できたとしても、聞き直すのは大きな手間です)。こちらは慣れが必要ですね。

観察で記録すること

観察に関しては、観察することが広範囲にわたりすぎるため、一般化して述べられることはありません。ただし、意図的な観察を行うときには記録用紙のようなものを用意するのが普通ですし、特に心配することはないかと思います。

以上、知覚する際のポイントを説明しました。次に知覚作業をする際に意識してみてください。

さらに学習を進めたい人は

ここまで読んでいただき、どうもありがとうございました。ロジカルシンキングの学習をさらに進めたい人は、以下のエントリーに進んでください。次は、知覚したことを客観的に述べるトレーニングです。

また、ロジカルシンキング関連のエントリーは以下のページにまとめてあります。こちらも参考にしてください。


  1. ただし、最近は写真や音声の修正が簡単にできてしまうので、これまでほど無条件に写真や音声を信用するべきではないのかもしれません。しかし、どうすればいいかは分かりません。たとえば、「写真に嘘がないかを批判的に検討する」ことは素人には不可能です(少なくとも私はできません)。こう考えると、「一部のプロが素人を騙しやすい世の中になっている」と言えるかもしれないですね。