荘加 大祐 (Daisuke Shoka)

このエントリーでは、問題解決とは何かを学びましょう。また、その過程で、問題解決とロジカルシンキングとの関係も説明します。2つとも、社会人になるとよく聞く言葉ですが、いったいどのような関係にあるのでしょうか?
では始めていきましょう。
目次
まとめ
このエントリーは長いので、先に要点を書いておきます。今回の内容をまとめると、以下のようになります。
- 問題解決とは、現状とゴールのギャップを(現状をゴールに近づけることで)埋めることである。要するに「望みを叶えること」だと理解しておけばいい
- 問題解決は、①論点を設定して、②解決策を決め、③解決策をやりきることで達成される
- ロジカルシンキングは、問題解決の1プロセスである「②解決策を決める」部分で中心的に必要となるスキルである
- 正しい解決策を考えるために、ロジカルシンキングが必要になる
- 本当の関心事は問題解決であって、ロジカルシンキングではない
- ロジカルシンキングは効率的に問題解決をするためのツール
このあたりのことを押さえると、世間で一般に言われているロジカルシンキングに対する批判に対しても、一段深い理解ができるようになります。
では、順に説明します。
問題解決とは
最初に、「問題解決」という言葉の意味を定義しましょう。以下のスライドを見てください。
このように、問題解決とは、現状とゴールのギャップを、現状を動かして埋めることです。
問題解決:現状とゴールのギャップを、現状を動かして埋めること
しかし、これだけ言われても何のことだかサッパリ分からないでしょう。問題解決とは「問題」を「解決する」ことですから、分けて順に説明していきます。
問題とは
まずは「問題」から始めましょう。以下のスライドを見てください。
このように、問題解決の文脈では、問題を「ゴールとギャップのある現状」と定義します。
問題:ゴールとギャップのある現状
この定義は、あなたが普段使っている「問題」という言葉の意味とは大きく異なるでしょう。最初は違和感があるかもしれませんが、そういうものだと受け入れてください。
説明
では、先ほどのスライドを具体的に説明します。問題の持ち主はあなたであると仮定してください。
まず、あなたは現在「英語が話せない」とします。これがあなたの「現状」ですね。
ただし、これだけではまだ、この現状があなたにとって「問題」であるかは決まりません。この現状があなたにとって「問題」であるかは、あなたが現状に対応するゴールを持っているかで決まります。もう一度スライドを見てみましょう。
スライドの左側は、あなたが「英語が話せるようになりたい」という「ゴール」を持っている場合です。このとき、あなたの「現状(=英語が話せない)」と「ゴール(=英語が話せる)」の間にはギャップ(隙間)がありますよね。このときにはじめて、あなたの「現状」はあなたにとって「問題」となるのです。
逆に、スライドの右側のように、あなたが「英語は別に話せなくてもいい」と思っていたらどうでしょう。このとき、英語が話せないという「現状」には、それに対応する「ゴール」がありません。当然、ギャップは生まれないですよね。この場合、「英語が話せない」という「現状」は、あなたにとって「問題」ではないわけです。
つまり、あなたが何らかのゴールを持っており、現状がそのゴールと一致していないとき、あなたは問題を抱えています1。これが問題解決の文脈における「問題」の定義です。
問題を「解決する」とは
次に、「解決する」とはどういうことかを考えましょう。私たちが「問題が解決された」と言うとき、問題はどうなっているのでしょう?
答えはシンプルです。その問題がもう存在しなくなったときに、私たちは「問題が解決された」と言いますよね。つまり、問題が「解決される」とは、存在していた問題がなくなることです。
では、どうすれば問題がなくなるのでしょう? 問題とは「現状とゴールのギャップ」なのですから、現状とゴールが一致すれば、問題はなくなります。
問題が解決されるとは、存在していた問題がなくなる(現状とゴールが一致する)こと
問題を解決する2つの方法
では、どうすれば問題を解決できるのでしょう? 以下のスライドを見てください。
このように、問題を解決する(現状とゴールを一致させる)には、大きく分けて2つの方法があります2。
- 現状をゴールに一致させる
- ゴールを無くす(ゴールを現状に一致させる)
この2つのどちらかが達成できれば、問題は解決するわけです。
さて、このうち、「②ゴールを無くす(ゴールを現状に一致させる)」とは、要するに諦めることです。「諦める」という言葉に良いイメージを持っている人はいないと思いますが、実は「諦める」というのは立派な問題解決の方法なのです。
ただ、一般に「問題解決」と言う場合、諦めて問題を解決することはスコープに含めません。よって、問題解決の定義は冒頭のようになるわけです。スライドを再掲しておきます。
問題解決:現状とゴールのギャップを、現状をゴールに近づけることで埋めること
問題解決と「諦める」
なお、諦めることを問題解決のスコープに含めないのは、諦めることが悪いからではありません。ここは誤解しないでください。
現実問題として、世の中にはどうやっても達成できないゴールがあります。そのようなゴールに囚われて延々とリソースを使うよりは、諦めて別のゴールに向かって進んだ方がいいこともありますよね。
しかし、諦めることに関しては、ノウハウとして学べることがないのです。ためしに、以下の問いを考えてみてください。
- いつ(どんな状況になったら)諦めるべきか?
- どうしたら諦められるか?
- どうしたら望まずにいられるか?
このような問いに対して、万人が納得する答えは用意できそうにありませんよね。結局、「状況によっては諦めた方がいい」以上のことは、何も言えないのです。私見ですが、諦めるノウハウは宗教の領域である気がします。
また、問題解決というスキルを学ぶ場合、最終的には誰かに問題解決を提供すること(=他者の問題を解決すること)がゴールになります。これが仕事の定義だからです。
仕事:他者の問題を解決すること
しかし、諦めるのは問題の持ち主にしかできないことであり、かつ、問題の持ち主だけで達成可能ですよね。言い換えると、「諦めた方がいいですよ」と言って金がもらえる仕事はないのです。
このような理由で、諦めるという方法は(1つのスキルジャンルとしての)問題解決のスコープからは外れます。しかし、あなたが自分の問題を解決する方法としては、諦めるという選択肢があることは忘れない方がよいでしょう。
問題解決のプロセス
問題解決が定義できたので、先に進みましょう。問題解決は、どのように行うのでしょうか?
問題解決のプロセスを、以下のスライドにまとめました。
スライドの上段にあるのが、根本的な考え方です。「何を」ゴールとするかを考え、「どうやって」ゴールに到達するかを考え、「行動する」。
これをそれらしい言葉で言い換えると、以下の3つのプロセスになります。
- 論点を設定する:何をゴールとするか(どの問題にリソースを投入するか)を決める
- 解決策を決める:ゴールに到達するために実行する解決策を決める
- 解決策をやりきる:決めた解決策を実行し、ゴールに到達する
順に見ていきましょう。
問題解決のプロセス①:論点を設定する
問題解決の最初のプロセスは、論点を設定することです。
すべての問題解決は、論点を設定するところから始まります。論点とは、あなたがリソースを投入して、解決しにいく問題のことです3。
論点:リソースを投入してゴールへの到達を目指す問題
つまり、「論点を設定する」とは、自分が本腰を入れて叶えにいくゴールを決めることです。
たとえば、「高校3年の夏になったので、部活を辞めて受験勉強を頑張る」と決めることは、論点を設定しています。何をするのか、何をしないのかがハッキリしているのが分かるでしょう。
話を進めましょう。なぜ、最初のプロセスが論点を設定することなのでしょう?
問題というのは、欲望があればどれだけでも生まれてきます。大金持ちになりたい、隣のあの人をゲットしたい、全国大会に出たい、美味しいものを食べたい。これらの欲望は、同時に成立しますよね。
つまり、問題は同時にいくつでも認識できるわけです。
しかし、すべての問題を同時に解決することはできません。リソースには限りがあるからです。そこで、論点を決める必要が生じます。自分の認識している問題を洗い出し、そこに優先順位をつけていくわけですね。
論点を設定するのに必要とされるスキル・能力
では、どのようなスキル・能力を持っていると、上手に論点を設定できるのでしょう?
申し訳ないのですが、この問いに対する答えは現在のところ分かりません。私自身、答えが出せていませんし、私が知る限り、この領域に関する万能のノウハウは存在しません。
ある意味で、それは当然のことです。何を論点とするか(何を望んで、叶えにいくか)は価値観の話であり、スキルや能力で上手くやるようなことではないからです。万人が有用性を認めるようなノウハウは、今後も出てこない可能性が高いです。
問題解決のプロセス②:解決策を決める
次のプロセスは、解決策を決めることです。
自明のことですが、行動をしない限り、現状がゴールに近づくことはありません。言い換えると、問題を解決するためには、ゴールに近づくための行動が必須です。問題解決では、この「ゴールに近づくための行動」を解決策と呼びます。
解決策:現状をゴールに近づけるための行動
ということは、論点が設定できたら、次は解決策を決める必要があります。何を、いつ、どれだけ、どのようにやるかを考えるわけですね。これが解決策を決めるということです。
たとえば、「X大学に合格する」というゴールを論点として設定したとします。この場合、「解決策を決める」とは、どの教科を、何の参考書を使って、何時間、どこで、どのように勉強するかを決めることです。何も考えずに勉強を始めるより、少し時間を使って考えてから行動する方が、最終的には効率的にゴールに到達できますよね。
解決策を決めるのに必要とされるスキル・能力
では、どのようなスキル・能力を持っていると、上手に解決策を決めることができるのでしょう?
このプロセスで大活躍するのが、思考法と呼ばれるスキルです。代表的なものを以下に挙げておきます。
- ロジカルシンキング
- クリティカルシンキング
- クリエイティブシンキング
- ラテラルシンキング
これらの思考法の細かい違いは、以下のリンクを参考にしてください。
このエントリーでは、これらの思考法に共通することを押さえてください。これらの思考法はすべて、「正解がない問いに対する、正しい答えの探し方」を扱っています。
この「解決策を決める」プロセスでは、「現状をゴールに近づけるために、何をすべきか?」という問いを考えることになります。しかし、この問いに正解は用意されていません。
誰だって、やっても意味のないことや、遠回りはしたくないですよね。つまり、私たちは正しい解決策(実行すれば、現状をゴールに効率的に近づけるもの)が知りたいのです。思考法というスキルは、その手助けになります。
上で紹介したように、ロジカルシンキングは代表的な思考法であり、「何が正しいのか」に焦点を当てています。というわけで、ロジカルシンキングは正しい解決策を探すのに役立ちます。
ロジカルシンキングは「何が正しいのか」を判断するスキルなので、正しい解決策を見つけるのに役立つ
思考法以外のスキルも紹介しておきましょう。
まず、自分の問題解決ではなく、仕事として他者の問題解決をするなら、コミュニケーションスキルも必須です。考えた解決策が正しいことを他者に説得する必要がありますからね。
さらに、決断力も必要です。解決策を「考える」ことと、「やると決める」ことは、全く別の話です。このプロセスは解決策を決めて終わりなので、誰かが決めないと終われません。それは、ロジカルシンキングとは別のスキル(力)です。
ロジカルシンキングというスキルに対してなされる批判として、「ロジカルシンキングを身につけると、考えてばかりで行動しなくなる」というものがあります。こういう側面がある(ロジカルシンキングを重視しすぎて、決断力が下がる)ことは私も認めますが、かといってロジカルシンキングを使わずに正しい解決策を考えることは不可能です。ロジカルシンキングと決断力は、分けて考えた方がよいでしょう。
このあたりのことは以下のリンクでも詳しく説明しています。
問題解決のプロセス③:解決策をやりきる
最後のプロセスは、解決策をやりきることです。
解決策を決めただけでは、現状は何も変わりません。「ダイエットをするために、毎日10km走る」と決めただけでは、体重は1gも減らないのと同じです。
現状をゴールに近づけるためには、解決策を実行する必要があります。それをやり続けることができれば、いつかはゴールに到達できるでしょう4。これが解決策をやりきるということです。
解決策をやりきるのに必要とされるスキル・能力
では、どのようなスキル・能力を持っていると、解決策をやりきれるのでしょう?
一般に、この「解決策をやりきる」力のことを行動力や実行力と呼ぶわけですが5、こういった言葉を覚えることに意味はありません。問題は、どうすれば行動力・実行力がつくかです。
最も重要なのがモチベーション(やる気)であることは言うまでもありません。これはスキル・能力と呼べる代物ではありませんが、とにかく、モチベーションなしで解決策をやりきることは不可能です。その意味で、モチベーションが湧くような論点を設定することが重要です。
さらには、習慣化も重要です。たとえば、歯を磨くのにモチベーションは必要ないですよね。いつもやることだから、やるだけです。このように、解決策を習慣化できれば、モチベーションが不要になります。最初にモチベーションを高めて、モチベーションがあるうちに習慣化するのが王道でしょう。
仕事の文脈で考える場合は、以下のような視点での検討が必要になります。
- 機械化・自動化(解決策を人間に実行させるのをやめる)
- 解決策を人間が実行する場合
- マニュアル整備(誰でも同じように解決策を理解・実行できるようにする)
- 報酬設計(モチベーションが出るような制度を作る)
ということで、あまりスキル・能力と呼べるようなものはないですが、どれも重要なことなのでしっかり押さえておいてください。
問題解決とロジカルシンキング
では、問題解決を一通り説明したので、最後に問題解決とロジカルシンキングの関係を整理しておきます。
覚えておくポイントはたった1つです。重要なのは問題解決であって、ロジカルシンキングではありません。私たちはゴールに到達したいのであって、正しい解決策が知りたいわけではないからです。正しい解決策は、あくまでもゴールに効率的に到達するための手段でしかありません。
ロジカルシンキングは、効率的に問題解決をするためのツール
以上、問題解決とロジカルシンキングの関係を説明しました。ここをきちんと押さえて、問題解決にロジカルシンキングを役立ててくださいね。
なお、先ほども紹介しましたが、ロジカルシンキングに対してなされる批判に関しては以下のエントリーで解説しています。こちらも読んでみてください。
また、ロジカルシンキング関連のエントリーは以下のページにまとめてあります。こちらも参考にしてください。
参考文献
-
ゴールが存在している時点で現状とギャップがあるのは明らかですから、単に「ゴール = 問題」と考えても問題ありません。 ↩
-
厳密に考えると現状とゴールの両方を中途半端に動かしても問題は解決しますが、ややこしくなるので割愛しています。 ↩
-
ただし、これは問題解決の文脈における「論点」の定義です。ロジカルシンキングでも「論点」は出てくるのですが、その場合は「考えたい問い」を意味するので注意してください。勉強するうちに、どちらも本質的には同じことを指していると分かります。 ↩
-
実際には、考えた解決策が間違っていたり、そもそものゴール設定に無理があるケースもあるので、決めた解決策をやりきれば問題が解決するとは限りません。プロセス図に反対向きの矢印がついているのは、それが理由です。状況に応じて、解決策を修正したり、そもそものゴール設定からやり直すこともあるわけです。 ↩
-
私の感覚的には、「行動力」には「後先を考えずに、とりあえず実行する力」のようなニュアンスが含まれるので、フォーマルな文脈では「実行力」を使った方が安全でしょう。 ↩