根拠の妥当性の検討方法【批判するとは①】

批判的に考えるということ

このエントリーでは、根拠の妥当性の検討方法を学びましょう。

狭義のロジカルシンキングとは、「妥当な根拠の構築方法を学ぶ学問」だと言えます。このサイトではロジカルシンキングをもう少し広義に捉えていますが、それでも妥当な根拠を構築することが主要なゴールの1つであることは変わりません。

妥当な根拠を構築できるようになるためには、根拠の妥当性がどのように検討されるのかを知っておく必要があります。ここが最初の一歩ですので、しっかり押さえてください。

では始めていきましょう。

主張が認められるには

まず、ロジカルシンキングにおける根拠の立ち位置を整理しておきましょう。以下の2点に要約できます。

  1. ある論点が存在するときに私たちが決めたいのは、「主張の是非(主張が正しいか)」である
  2. 主張の是非を判断するために、根拠の妥当性を検討する

例で確認しておきましょう。

Aさん
Aさん

家を買うべきだろうか、借りるべきだろうか?

Bさん
Bさん

借りるべきだと僕は思うよ。

理由は3つある。まず、今の日本で不動産を買うのは高値づかみになる可能性が高い。日本の人口はこれから減り続けるわけで、家はこれから余る一方だからね。逆に言えば家賃は下がっていく可能性が高いのだから、不動産価格の変化に合わせて家を借り替える方がいいんじゃないかな。

2つめに、(以下略)

ロジカルシンキングでは、「借りるべきだ」という主張に飛びつくことは禁止です。その後に述べられる根拠を検討して、その妥当性に基づいて主張を受け入れるかを決めるのです。

Point

ロジカルシンキングでは、根拠の妥当性を検討して主張の是非を決める

では、どのように、根拠の妥当性を検討したらよいのでしょう?

「根拠の妥当性を検討する」ということ

最初にざっくりとしたイメージを掴んでください。根拠の妥当性を検討するとは、建物の強度テストを行うようなものです

以下のスライドを見てください。このように、ロジックとは文の建築だと捉えられます。

ロジックの構成

根拠の妥当性を検討するとは、この建築の緑色の部分(根拠)の強度テストをすることです。柱をハンマーで叩いてみたり、バズーカ砲を打ち込んでみたりするわけですね。それでも土台が崩れずに屋根(主張)が残っていたら、主張は正しいということです。

強度テストをする=批判する

もちろん、実際の根拠を検討する際には、ハンマーやバズーカ砲は使えません。そこで何をするかというと、根拠を批判します

Point

根拠の妥当性を検討するためには、根拠を批判する

では、批判するとは、具体的に何をすることなのでしょう? 先ほどの例で確認してみましょう。

Aさん
Aさん

家を買うべきだろうか、借りるべきだろうか?

Bさん
Bさん

借りるべきだと僕は思うよ。

理由は3つある。まず、今の日本で不動産を買うのは高値づかみになる可能性が高い。日本の人口はこれから減り続けるわけで、家はこれから余る一方だからね。逆に言えば家賃は下がっていく可能性が高いのだから、不動産価格の変化に合わせて家を借り替える方がいいんじゃないかな。

2つめに、(以下略)

ロジックを提示しているのはBさんなので、Aさんが根拠を批判するということにしましょう。では、Aさんは何をすればよいのでしょう?

批判するとは、提示された根拠が本当に正しいのかどうかを、自分で検討することです。盲目的に受け入れるのではなく、受け入れていいかを自分で再度考えるわけですね。要するに、疑うということです。

実際に、Aさんに批判してもらいましょう。具体的には、以下のような問いを自分で立てて、自分で考えることになります。

Aさん
Aさん

本当に日本の人口は減り続けるだろうか?

Aさん
Aさん

人口が減るなら不動産価格は下がるという前提は正しいのか?

Aさん
Aさん

家を借り替えるときには敷金や礼金が必要になるわけで、それらを織り込んでも借りるほうが安いのだろうか?

たとえば、「人口が減るなら不動産価格は下がる」ということは一般論としては正しいとしても、そもそも日本のすべての地域で一律に人口が減るわけではありません。都市部(たとえば東京)なら、人口の減少スピードは田舎ほど早くはなさそうですよね。となると、地域を絞り込まずに「日本の不動産はこれから値下がりする」というのは言い過ぎかもしれません。

今回は本当に「家を買うべきか、借りるべきか?」という論点を考えたいわけではないので、このあたりにしておきましょう。

ここで掴んでほしいのは、「批判する」ということのざっくりしたイメージです。柱をハンマーでコンコンと叩いているところをイメージしてください。個々の根拠を疑うことによって、その正しさを検討している(根拠の強度をテストしている)のです。

Point

批判する:提示された根拠が本当に正しいかを、自分で検討する

1人で考えるときにも批判する

上の例では分かりやすいように2人いるケースを使いましたが、これは1人で考えるときでも同じです。ロジックが用意できたら、もう1人の自分にその根拠を批判させましょう

根拠があなた自身の批判に耐え抜いたなら、ロジックとして他人に伝えていいでしょう。もし根拠が批判に耐え抜けないなら、①主張を変更するか、②別の根拠を探さなければなりません。こうやって、主張と根拠をグルグル行き来することが、批判的に考えるということです。

考えるということ

余談ですが、日本で「ロジカルシンキング」と呼ばれているスキルは、英語では「Critical Thinking(批判的思考)」という名前です1。根拠を無条件に受け入れるのではなく、常に自分で批判的に検討する。これを繰り返すことで、より強固な(妥当な)根拠を構築できるようになります。そうすることで、最終的に正しい主張を見つけようというわけです。

批判に悪い意味はない

なお、ここでの「批判」という言葉には、ネガティブな意味は含まれていません。「批判する」という行為はロジカルシンキングを実践する上でどうしても必要なことであり、「あいつを論破してやろう」、「あいつが気にいらない」といったネガティブな感情から行うことではありません。

言い換えると、根拠を批判することは当然の行為です。より妥当な根拠(および、それに付随する主張)に到達するためには、根拠を批判するしかないからです。ロジカルシンキングにおいて、批判することは単なる作法であり、もっと言えば、純粋な知的好奇心から行うことです。誰かがあなたの提示した根拠を批判したからといって、その人があなたのことを好きだとか嫌いだとか、そういう話にはなりません。

一部の人は、このことを誤解しています。「自分の根拠を批判してくる人間(結果として、自分の主張を否定してくる人間)=自分の敵」という構図になってしまっているのです。そのせいか、一般的な意味での「批判」は、ほとんど「誹謗中傷」と同じニュアンスになってしまっている、というのが私の印象です。これは本当に残念なことです。

このようなマインドセットを持ってしまうと、もはや誰かと考えることは不可能です。根拠を批判することができなければ、できることは主張の肯定/否定だけです。主張を肯定/否定するかは決断の話であり、「考える」という行為とは関係ありません。誰かと共に考えるためには、根拠を批判し、批判されることを当然のこととして受け入れる必要があるのです。

Point

ロジカルシンキングにおいて根拠を批判することは当然の行動で、そこに人格攻撃的な意味合いはない

もちろん、実際の議論においては、人格攻撃的な意味合いを持ってあなたのロジックを批判してくる人がいるのはたしかです。また、何でもかんでも批判していては、人間関係がこじれてしまうことも間違いありません。ときには批判することをやめて、無条件に主張を肯定(=共感)した方が上手くいくことも多いでしょう。批判することが建設的な議論につながる相手と状況を選ぶことを忘れないでください。

妥当な根拠とは

話を進めましょう。ここまでに説明したとおり、根拠は常に批判的な目線に晒されています。示された根拠が「その根拠で、主張していることを支えられるのか?」という目線に耐え抜くことができれば、晴れて主張が認められるわけです。批判に耐えられなければ、根拠が崩れ、主張は認められません。

ここから、「根拠が妥当である」ということの意味が明らかになります。妥当な根拠とは、批判に耐えぬける根拠のことです。批判に耐え抜けば、根拠は主張を支えられる。つまり、その根拠は妥当だったということなのです。

Point

妥当な根拠とは、批判に耐えぬける根拠のこと

ということは、妥当な根拠を構築する上では、根拠を批判する方法を理解することがキーポイントになります。どんな攻撃が来るか分かっていれば、あらかじめ備えておくことができますからね。ハンマーで叩いても壊れない柱を立てるために、ハンマーの使い方を覚えましょうということです。

以上、根拠の妥当性の検討方法を説明しました。次回は具体的な批判の方法を学んでいきましょう。

また、ロジカルシンキング関連のエントリーは以下のページにまとめてあります。こちらも参考にしてください。


  1. 本文中でも述べたとおり、“critical”の訳語である「批判」にはどうしてもネガティブなイメージがつきまとうので、それを嫌って名前を変えたのかもしれません。ただし、日本語でも「ロジカルシンキング」と「クリティカルシンキング」を別スキルとして扱う人もいます。